製造業の品質管理は決して簡単な作業ではありません。往々にして後から見えてくることが多くあります。部品が組立ラインを流れ出て検査を受ける段階では、問題を発見するには遅すぎるかもしれません。製造工程の最終段階まで待って「欠陥ゼロ」の製品を完成させようとすると、多くのリソース、時間、コストが無駄になります。
しかし、これに代わる画期的な方法があるのです。
例えば、溶接工程で、赤外線カメラが製造中の製品の熱シグネチャーを正確に追跡している光景を思い浮かべてみてください。溶接が正しく行われていなければ、直ちにアラートが鳴り、リアルタイムで工程が修正されます。このような製造工程の画期的な効率化は、機械学習(ML)などの先進技術を基盤として徐々に浸透し始めており、大規模な予測的解決への投資の1つとなっています。
「予測的解決(predictive resolution)」という言葉に聞き覚えがあるとすれば、それと密接に関連し、親戚関係に当たる「予知保全(predictive maintenance)」という言葉がよく知られているからかもしれません。
データを活用した技術がここ数年で製造業に与えた影響の速さには、驚くべきものがあります。製造業は、インダストリー4.0やインダストリー5.0といった、デジタル変革(DX)の新たな進化を繰り返し、特に予知保全を促進して、さまざまな恩恵を受けてきました。
予知保全は、インダストリー4.0の主要な原則のひとつであり、装置の健全性に関するデータを活用することで深刻な故障を未然に防ぐという理論に基づいています。機械の振動や過熱状態を分析し、そのデータをMLモデルに投入することで、メーカーは機器が故障する時期を予測し、障害を回避するための対応を取ることが可能になります。このような予測的な対応により、従来この業界の大きな課題であったダウンタイムによる多額の損失を防ぐことができます。
予知保全は、予測的解決の手法のひとつです。予知保全がもたらす数々のメリットは、予測的解決にも当てはまります。しかし、この2つにはいくつかの根本的な違いがあります。
予知保全は、機器が故障しそうになった時点でメーカーに通知します。予測的解決はこれよりさらに一歩踏み込んで、問題の解決方法を提案します。つまり、予知保全が「もし」と「いつ」に対応するものであるのに対し、予測解決は「どのように」に対応します。
予知保全は、製造装置に焦点を絞り、より狭い範囲を対象としています。それに対して、予測的解決は、装置の健全性のほかにも、サプライチェーン管理から作業員のスケジュール管理やプロセス改善に至るまで、ほぼすべての業務を対象としています。先に述べた赤外線カメラによる溶接工程の修正は、予測的解決によるプロセス効率の改善の一例です。リアルタイム監視装置を搭載した機械は、生産ラインの遅延を即座に修正し、ボトルネックを解消することで、1日あるいは1時間ごとの生産目標を達成することができます。
予測的解決は、製造装置の不具合を発見するだけではなく、関連する業務全体で適切に機能していない領域を見つけ出し、その解決策を提案するのです。
これまでは不透明だった製造工程も、デジタル変革とデータ活用により、業務がより透明化されました。その結果、非効率な要素を特定し、修正することが容易になりました。
言うまでもなく、製造業界に最大とも言える変革をもたらしたのは、IIoTセンサを大規模に開発・展開してきたことです。機械にセンサが搭載されると「通信」が可能になり、メーカーはその情報に基づいてデータ主導の意思決定を行うことができます。ただし、IIoT だけでは十分ではありません。IIoT が生成する膨大なデータによって、メーカーが情報過多に陥る可能性があるからです。しかし、AI などのテクノロジーは、メーカー がデータを理解するのを助けます。このデータを予測的機械学習モデルに投入すると、予知保全を実行できるようになります。
現在、予測的解決を通じて、製造企業のさまざまな部門間のデータのサイロ化が解消され、非構造化データの読み取り能力が向上し、データ主導の意思決定にさらなる進歩がもたらされています。
さらに、その効率化は製造現場の機械にとどまりません。生成型AIモデルは、マニュアル、機器のメンテナンスログ、電子メールなどに蓄積された固有情報を学習し、自然言語処理(NLP)を使用して従業員向けのトレーニングモジュールを作成することもできます。業務経験の浅い作業員でも、生成型AIモデルに質問することで、1か所に集約された修理指示やログ記録にアクセスでき、またデータがロックされたりサイロ化されたりすることもありません。
製造業にとって最大の課題の1つは、これまで、関連性のある有益なデータを収集することでした。テクノロジーが整備された今、予測的解決が製造業を新しいユニークな方法で支援することが期待されています。
予測的解決の活用事例は数多くあります。
例えば、メーカーが機器を販売するのではなくリースする「製品のサービス化」では、予測的解決を活用することで、より安定した収益を確保することができます。メーカーは、このリース機器からデータに取得し、予測AIモデルをさらに細かく調整することができます。
メーカーはすでに、予知保全を実施し、ダウンタイム短縮とコスト削減を実現しています。原因分析と予知保全と併せて、予測的解決は、機械だけではなく、さらに広い範囲にわたって問題の発見と解決を行います。デジタル変革の道を切り開いてきた製造業は、今後、この包括的なアプローチから大きな恩恵を受けることになるでしょう。
ポアニマ・アプテは、エンジニアから企業向けライターに転身。専門分野は、ロボティクス、AI、サイバーセキュリティ、スマートテクノロジー、DX (デジタルトランスフォーメーション) など。詳しくはTwitter @booksnfreshairで検索を。